私の好きな絵本『おにたのぼうし』

「おにたのぼうし」はお下がりではなく私だけに買ってくれたもので、子どもの頃のとても思い出深い絵本です。節分の夜のおはなしで豆まきやら柊の葉で住処を追われた気のいい黒おにの子ども、おにたが、病気のおかあさんと暮らしている女の子の家に入り込みます。女の子は実は何も食べていなくておなかがすいているのに、知らない男の子から節分のごちそうをもらったとおかあさんにうそを言います。女の子がなにも食べていないことを知ったおにたは、どこからか本当に温かいごはんを女の子に持ってきます。
「せつぶんだから、ごちそうがあまったんだ。」おにたは一生懸命、さっき女の子が言ったとおりに言います。女の子はごちそうを喜びますが、豆まきをしたいと言い出します。おにが来れば、おかあさんの病気が悪くなるからと。おにたは悲しそうに身ぶるいをして、
「おにだって、いろいろあるのに。おにだって……」
そして、氷が解けたように急におにたがいなくなり、後にはおにたのかぶっていた麦わらぼうしだけがぽつんと残っています。女の子はその中にまだ温かい黒いまめを見つけます。
 いわさきちひろさんの淡い色彩の絵がこのおはなしをみごとに膨らませてくれる。粉雪が降っている寒々とした感じ、女の子の指先の冷たさが伝わってくる。病気のおかあさんを心配させないようにごはんを食べていないのに食べたという健気な女の子。さびしいようなせつないような黒目勝ちの女の子の表情がなんともいえず好きだった。でも、小さかった私はもぱっらおにたに肩入れしていて、豆まきをしたいと言い出した女の子が許せなかった。「おにたみたいにいいおにもいるのに……。おにたはどうなってしまったのだろう。」 豆まきをしながら女の子は、おにたのことを神さまにちがいないと思ってくれたのが、せめてもの救いでした。
 私が小さかった頃、家には世界の名作集のようなものが何冊かあって、いわさきちひろさんの挿し絵が付いていたように記憶しています。その本は古く独特のにおいがあって、いわさきちひろさんの絵を見ると、今でもそのにおいを思い出します。

毎年節分の頃になると、この本を図書館から借りてきて子どもたちと読みます。毎日せっせと子どもたちと一緒に絵本を読むのは、私が子どもの頃の気持ちに帰りたいからかもしれません。それに、あの頃いい本をもっともっと読んでいれば私は今とは違った大人になっていたかもしれないという反省からかもしれません。