サンタクロースの部屋
スーパーでだだをこねていた子どもにお母さんが「言うこと聞けへんかったら、
もうサンタさんが来ないよ!」
クリスマス前になると、よく聞かれる脅し文句だ。
沖縄に住んでいたとき、「サンタクロースの部屋」という絵本の勉強会に
参加していた。なぜ、こんなサークルの名前になったかという説明の文章を
今も大切にもっている。
松岡 享子著「サンタクロースの部屋」より
12月にはいると、街はもうおきまりのクリスマス風景。
「ああ、またジングルベルの季節がきたか」とおとなたちは思い、
子どもたちの多くは、やはりサンタクロースのことを考える。(中略)
もう数年前のことになるが、アメリカのある児童文学評論誌に、次のような
一文が掲載されていた。
「子どもたちは、遅かれ早かれ、サンタクロースが本当はだれかを知る。
知ってしまえば、そのこと自体は他愛のないこととして片付けられてしまうだろう。
しかし、幼い日に、心からサンタクロースの存在を信じることは、
その人の中に、信じるという能力を養う。わたしたちはサンタクロースその人の
重要さのためでなく、サンタクロースが子どもの心に働きかけて生みだす
この能力ゆえに、サンタクロースをもっと大事にしなければいけない」というのが、
その大要であった。(中略)
心の中に、ひとたびサンタクロースを住まわせた子は、心の中に、
サンタクロースを収容する空間をつくりあげている。
サンタクロースその人は、いつかその子の心の外へ出ていってしまうだろう。
だが、サンタクロースが占めていた心の空間は、その子の中に残る。
この空間がある限り、人は成長に従って、サンタクロースに代わる新しい住人を、
ここに迎えいれることができる。
*
この空間、この収容能力、つまり目に見えないものを信じるという心の働きが、
人間の精神生活のあらゆる面で、どんなに重要かはいうまでもない。のちに、
いちばん崇高なものを宿すかもしれぬ心の場所が、実は幼い日にサンタクロースを
住まわせることによってつくられるのだ。・・・
この時季になると、この文章の趣旨をいっしょに共感した仲間を懐かしく
思い出す。
夕方、次男が思い出したように玄関の掃き掃除を始めた。「玄関が汚れていると、
サンタさんがうちに寄ってくれないでしょう!」だって。