鬼の目にも涙

泰々が走ってる!
目を凝らしてよく見る。
間違いない。
「もう、ほんまに人騒がせな〜」、「やる時は、やるやん!」とうれしさに浸る。
昨日から、いろいろあったけど、走り終わった泰々のうれしそうな表情を見ているとこれで帳消しのようだ。

ラソン大会の朝、なかなか起きず、ぐずぐずしている。
「走るのがイヤだったら、走らなくてもいいんだよ」などと、なだめすかすが、
「どうすることもできない」とか言いだし、本当のところがよくわからない。
どうも走るのが嫌だというわけではないみたいだ。
推測するに、早く走って記録を伸ばしたいとか、上位に入りたいとかで、
プレッシャーがかかっているようだ。

本人は一歩が出なくて苦しんでいるのだが、こっちとしては「なんでこんなことぐらいで・・・」とイライラしてくる。
学校からも電話が入り、すったもんだの挙げ句、ようやく家を出た。
しばらくして、様子を見に行くと、ちんたら歩いている。
「あ〜、もう!」という気持ちを抑えて、泰々の後ろ姿を見守る。

10年この子を育ててわかったことは、ここで怒鳴っても、ムダだということ。
自分からその気にならないと、どうにもならないということだ。
本人が自分で考えて、苦しんで、行動をするのを母はただ見守るだけである。